労働条件とは?概要や明示すべき項目、変更時のルールをあわせて解説!
企業や事業主が労働者を雇うときには、労働条件を明示する必要があります。その際に「労働条件通知書」を作成し、交付することが法律により義務付けられています。本記事では、労働条件の概要から必須である記載事項、労働条件を変更する際のルール、理解しておくべき注意点について詳しく解説します。
目次 [非表示]
1.労働条件とは、雇用した労働者に明示する具体的な取り決めのこと
労働条件とは、「労働者がどのような条件のもとで働くのかを具体的に取り決めたもの」を指します。
労働基準法には、事業者が雇用をおこなう際に労働条件を明示する旨を義務付けています。労働条件に関する定めは労働基準法第15条に以下のように記載されています。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
求職者にとって、働く環境や条件は重要です。よりよい環境で働くために、求職者は各企業の労働条件を比較し、最適と思える企業を選んで応募しています。
求人票や求人広告を出す際には提示した条件と、実際の労働条件が異なることがないようにしましょう。労使間での認識の相違が生じると、のちにトラブルへと発展するリスクがあるため注意しましょう。
2.労働者に対して労働条件を提示するタイミングは?
労働条件通知書の提示は、新たに労働者を雇い入れる際におこないます。新卒採用や中途採用、アルバイトやパートの採用など、全てのケースにおいて労働条件の明示が必須となります。
また、求人票や求人広告を出す際にも労働条件を明示しなければなりません。
ただし、求人広告のスペースが狭いなどの理由ですべての労働条件が記載できないこともあるものです。この場合には、求職者と接触する前段階で労働条件を明示するのが望ましいと考えられます。
求職者からの応募があった際には、労働条件を伝えて内容を確認してもらいましょう。あらかじめ労働条件を確認してもらえば、面接時のミスマッチを防ぐことができます。
また、労働条件に変更がある場合には、あらためて労働条件通知書を作成して労働者に提示することも徹底しましょう。
3.労働条件通知書への明示が義務付けられている事項
労働条件通知書に記載する項目は、「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」に分けられます。労働条件通知書に必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」には以下のようなものがあります。
3-1.労働契約の期間
雇用にあたって契約期間の定めがあるのか、定めがある場合には契約期間がいつまでなのかを記載します。
また、この欄には、契約更新の有無についても明示しておきましょう。更新をしない場合や自動的に更新をする場合、更新がありうる場合などに分け、その内容を具体的に記載することが大切です。更新がありうる場合には、判断基準についても設けておくことが求められます。
3-2.就業場所と業務内容
就業場所の欄には、労働者が働く会社や店舗の住所や部署について記載します。
また、従事する業務の欄には実際の業務内容を具体的に記載します。複数の業務を任せる場合には、すべて記載しておきましょう。
3-3.業務時間
この欄には始業時間と就業時間、休憩時間に関する記載をします。
シフト制やフレックスタイム制、裁量労働制を導入している場合には、それぞれ具体的な運用方法を記載しましょう。変形労働時間制や交代勤務制の場合は、発生が想定される業務時間のパターンについても記載します。
3-4.休日、休暇
労働基準法に基づいて企業がそれぞれ設定している休日や休暇に関する記載も求められます。この欄には休日の日数や取得方法とともに、有給休暇の有無についても明示する必要があります。
3-5.賃金
この欄には給与の支払額や支払い方法、残業などの割増賃金率を記載しましょう。
3-6.退職に関する事項
労働者が退職する際の手続き方法も明示が義務付けられています。特に、退職の際に何日前までに届け出が必要なのかを告知することは重要です。
また、定年退職の有無、再雇用制度の有無についてもあわせて記載しましょう。
上記6項目は労働条件通知書の「絶対的明示事項」と呼ばれます。絶対的明示事項は書面にまとめ、労働者に必ず提示しなければなりません。
これに加え、会社が退職手当や賞与、災害補償などについて定めている場合にも別途告知をおこないましょう。これらの項目は「相対的明示事項」とされ書面にまとめる必要がないとされていますが、労働者に内容をわかりやすく伝えるためにも労働条件通知書にあわせて記載するのが望ましいでしょう。
労働条件通知書に記入すべき内容や体裁がわからないという場合には、厚生労働省が提供する書式を参考にするのがおすすめです。また、テンプレートを使って労働条件通知書を作成するという方法もあります。
テンプレートを用意して、自社の条件を記載していけば適切な形に仕上がりやすくなります。数字を提示するなどの方法で、具体的な労働条件を記載しましょう。
労働条件通知書の記載事項をより詳細に確認したい方は、以下の記事をご参照ください。
4.労働条件を変更するには?
労働条件の変更をおこないたい場合には、「従業員と使用者で合意をとること」で可能とされています。ただし、原則就業規則よりも内容が下回らない内容と限定されます。
ここからは、より詳しく労働条件の変更方法について解説します。
4-1.労働条件の一方的な不利益変更は不可
労働条件を変更する際には、「不利益変更」は認められないため注意しましょう。
不利益変更とは、従業員に対して会社が一方的に、労働条件を不利益な条件へと変更することを指します。例えば、賃金や手当、休日の減少、労働時間の増加などが挙げられます。
不利益変更がやむを得ず生じてしまう場合には、「労働条件の変更に合理性があるか」「変更後の就業規則を全従業員に周知する」などの要件を満たすことで認められる場合もあります。
その際には、以下の手続きが生じるとされています。
- 本人に個別で同意をとる
- 労働組合の組合員との合意をとり、労働協約を変更する(労働組合がある場合に限る)
- 就業規則の改定案を作成する
- 就業規則の改定案について、労働組合または労働者代表から意見を聴収する
- 「就業規則変更届」を意見書とともに労働基準監督署長へ提出する
4-2.労働条件変更通知書の交付は義務?
労働条件を変更した後には、「労働条件変更通知書」や「労働条件変更同意書」を作成して交付することが望ましいとされています。
法律による作成・交付の義務はありませんが、のちの労使間でのトラブルに繋がらないよう交付しておくと安心です。
労働条件をテレワークに変更するための労働条件変更同意書が、福井県の公式サイトにて公開されています。必要に応じて、ご活用ください。
5.労働条件に関して注意しておくべきポイント
ここからは、労働条件に関してあらかじめ把握しておきたい注意すべき点を解説します。
求人票や労働条件通知書、雇用契約書などとの内容の差異についてや、アルバイトやパートにおける労働条件通知書の必要性について、あわせて解説します。
5-1.実際の労働条件が、求人票・労働条件通知書・雇用契約書と相違がないようにする
求人票と実際の労働条件が乖離している場合、雇用した労働者から不満が噴出する恐れがあります。状況によっては違法とみなされることもあるため、十分な注意が必要です。
とはいえ、求人票の条件と実際の労働条件が異なっていたからといって、必ず違法となるわけではありません。
選考期間にて労働条件を提示する際に、就活生や求職者から内容に合意すれば、労働契約は問題なく成立するとされています。そのため求職者が実際の労働条件を把握した上で契約を結んだのであれば、たとえ求人票の記載と異なっていても問題はありません。
しかし万が一、十分な説明や適切な契約を省いた状態で仕事をスタートさせた場合、労働者が実際の労働条件に合意したとはみなされません。
最悪の場合、労働条件が不当とみなされ損害賠償や慰謝料の請求に至る可能性もあるので十分気をつけましょう。リスク回避のためにも、従業員を雇用する際には労働条件に関する十分な説明をおこなうことが求められます。
また労働契約時に提示する条件は、労働条件通知書として書面の形で残すことになります。
事前に明示した条件と異なる条件で働かせた場合、違法とみなされる可能性が高いため、こちらもあわせてご注意ください。
5-2.アルバイト・パート社員でも労働条件通知書の交付は必須
正社員はもちろん、アルバイトやパートタイマーといった雇用形態においても労働条件通知書の作成・交付は必須となります。
どの雇用形態においても、上述した絶対的明示事項と相対的明示事項は必ず記載することが求められます。そのうえで、雇用形態に応じて必要な事項は追加して記載する義務があるため、押さえておきましょう。
例えばパート社員を雇い入れる際には、パートタイム労働法第6条に則り、以下の事項を文書等で明示しなければなりません。
●「昇給の有無」
●「退職手当の有無」
●「賞与の有無」
●「相談窓口」
上記の項目に抜け漏れがある場合、違反となり10万円以下の罰金が科される可能性があるためご注意ください。
6.労働者を雇用する際には労働条件を具体的に説明しておくことが大切!
労働者を雇用する際には、労働基準法の定めに応じて労働条件を通知しなければなりません。労働条件を曖昧にしたまま仕事をさせた場合、違法とみなされるケースがあるので注意しましょう。
求人票や求人広告に記載した労働条件と実際の労働条件が異なるケースもあるものです。内容を変更する際には、実際の労働条件を具体的に説明し、適切な方法で契約をおこなうことが大切です。
両者が納得した上で雇用契約を結ぶことは、その後の不要なトラブルを避けることにつながります。