ガス絶縁開閉装置の診断技術

ガス絶縁開閉装置(以下,GIS*1 という。)の診断技術に関する記述である。

GIS は遮断器,断路器,接地開閉器,母線,ケーブル接続部などから構成されたコンパクトな開閉装置で,高電圧部を金属容器内に収納し,主絶縁として圧力の高い SF6 ガスを充填した構造を有している。

GIS の主要な故障は,絶縁故障,通電に伴う熱的故障及び機械的故障の三つに大別できる。

これら故障のうち劣化や経時変化を伴う故障については,異常の初期状態で兆候を検出して事故を未然に防止する診断技術の活用が,設備の保守効率化に有効である。

部分放電検出

絶縁異常の兆候をとらえる主な診断技術は部分放電の検出である。

部分放電に伴ってタンク内部に発生する各種現象を電気的(電磁波),機械的(AE:Acoustic Emission)に検出する方法が使われている。

また,分解ガスを検出する化学的方法,UHF帯域の電磁波を検出することで部分放電を pC 感度で管理する方法も採用されている。

UHF 法

電気的な検出法としては,絶縁スペーサに埋め込まれた電極を利用し部分放電パルスを検出する絶縁スペーサ法や外部ノイズの影響の少ない周波数帯での電磁波を監視し,部分放電を検出する UHF 法(Ultra High Frequency)などがある。

UHF 法は,感度・SN 比の点で優れていることが国際的に認知され,近年急速に GIS へ積極的に適用され始めた方法である。

この方法は,部分放電の放射する UHF 帯の電磁波をタンク内蔵または外付きのプローブで検出し,周波数分析して診断するもので,タンク内に UHF センサを内蔵,タンク外に増幅器スペクトラムアナライザ,診断部を設けている。

なお,UHF センサには,外付けタイプのものもある。

絶縁スペーサ法

スペース埋込アンテナ法といい,部分放電の放射 数十 MHz の電磁波をスペーサと一体注形した内部電極で検出し,絶縁診断するものである。

外被電極法

タンク外壁に絶縁フィルムを介して電極を取り付け,コロナによるパルス電圧(電磁波)のみを増幅して波形観測する。

AE センサなどにより検出する方法

機械的な検出法としては,部分放電により発生した圧力波が,タンクを励振することにより発生する振動や GIS 内異物が静電気力で生じるタンクとの衝突振動を AE センサや加速度センサにより検出する方法がある。

AE 法(Acousticc Emission)は,異物のタンクへの衝突および部分放電により発生する微弱なタンク振動をタンク外表面に密着固定した AE センサで検出し,絶縁診断するものである。

ガス検知管検出法(ガスチェッカ法)

化学的な検出法としては,放電や局部過熱に伴い発生する分解ガスをイオン化して検出する方法や,検知管*2に分解ガスを導入し呈色反応を診断に利用するガス検知管検出法などがある。

分解ガスセンサ

フッ素系生成物(HF)に応答して電気信号を出力するセンサを用いて,内部異常により発生した SF6 分解ガスを検出する。

分解ガスセンサによる方法は,部分放電により生成される HF をガス配管部に取り付けた検出電極で H と F に分解し,F- の固体電解質をドリフトさせ,電流として測定し,絶縁診断するものである。

ガス中水分測定

ガス中に含まれる水分が多くなると,固体絶縁物の表面に結露を生じ絶縁体耐力が低下し,絶縁破壊に至る。

このような理由からガス中の水分を測定する必要がある。

五酸化りんの薄膜に吸収させた電極間に電圧をかけ,水分を水素と酸素に分離させ,流れる電流を測定する,水分が入るとキャパシタンスが変化するエレメントを使い,キャパシタンスの変化を測定する,水分計法がある。

GIS 母線のシール異常

ガス配管,フランジ部などでシール異常があると,ガス漏れが生じ,ガス圧力低下に至る。

ガス漏れに対する診断技術としては,ガス圧力の変化を測定する方法とタンクからのガス漏れがないことを直接的に検出する方法があり,それぞれガス圧力センサやガス密度スイッチを用いた測定,ガスリークディテクタによる検出が採用されている。

通電に伴う熱的故障

通電に伴う熱的故障としては,内部導体の局部過熱や,がいし表面の温度変化を赤外線放射温度計などにより過熱位置と温度を推定する方法や,通電異常部での微小振動を検出する方法などがある。

GIS 母線の通電異常

GIS 母線の通電異常の要因として,主回路導体の接触不良がある。

この接触不良を検出する診断技術としては,導体の接触抵抗を測定する方法,局部加熱に起因するタンク温度上昇を温度センサ,赤外線カメラで検出する方法,局部過熱により発生する SF6 分解ガスを測定する方法,また通電異常箇所から発生する部分放電を検出する方法などが採用されている。

SF6 ガス遮断器の通電異常

SF6 ガス遮断器の通電異常においては,コンタクト損耗異常の検知がある。

このコンタクト損耗異常の主な要因としては,大電流遮断時のコンタクト損耗がある。

コンタクトの損耗は開閉特性(ワイプ量の測定など)を確認する方法があるが,電流遮断によるコンタクトの損耗は,一様に発生しないため,開閉特性では確認できない場合もあり,累積遮断回数により管理する場合もある。

開閉特性による診断

開閉器の機械的な診断技術としては,開閉特性に着目し開閉器操作時の動作時間や,累積遮断電流と接点消耗量の関係から診断を行う方法がある。

SF6 ガス遮断器の機械的異常

SF6 ガス遮断器の操作機構部の固渋や不動作の要因として,グリスの劣化や電装品の不具合などが挙げられる。

機械的異常の診断技術としては,開閉動作特性を測定し,動作特性不良を判定する方法がある。

開閉動作特性を測定する方法としては,制御電流や補助スイッチの動作を測定する方式,機構部の動作速度をセンサにて検出する方式がある。

また,油圧操作用油圧系統の異常を油圧ポンプの動作頻度で検出する方法などがある。

開閉時間による診断

引外しコイルや投入コイルに流れる電流を CT で測定し,その通電時間から動作時間や入-切の開閉時間を測定するものである。

GCB の制御信号の ON,OFF 時間をカウントし,整定時間と比較することにより異常を検出する。

ストローク特性による診断

光エンコーダにより光学的にストローク特性,開閉速度,開極時間,閉極時間,接触子位置を測定し,異常診断するものである。

光エンコーダを操作ロッドに連結された操作機構部に取り付ける。

投入・引外し電流波形による診断

引外し回路に CT を設けて投入コイルと引外しコイル電流を測定し,電流波形から操作機構部の異常を検知するもので,コイル電流と時間(時間特性)から制御機構の解離速さを,電流からコイルの直流抵抗を知ることができる。

接点,消耗量による診断

CT で計測した遮断電流と引外しコイル電流からの動作情報を用い,遮断器の累積遮断電流を求め,接点消耗量を演算するものである。

接触子消耗量 𝑉 は,次式で求められる。

𝑉=𝛼⋅𝐼𝛽⋅𝑡

ただし,𝐼 は遮断電流,𝑡 はアーク時間,𝛼 と 𝛽 は材料で決まる定数である。

操作器の蓄勢エネルギーによる診断

ばね操作,油圧操作,空気操作それぞれで,次表のように蓄勢エネルギーによる診断を行う。

表 操作器の蓄勢エネルギーによる診断
操作方式 診断方法
ばね操作 ばねのラッチの位置センサやモータの動作時間,電圧,電流を測定
油圧操作 油圧,窒素ガス圧を測定,あるいは,ピストン,ばね,バルブの位置を測定
空気操作 空気圧を測定

モータの状態による診断

モータの電圧・電流・温度を測定する。油圧用のモータの場合は,運転時間,動作時間,運転間隔を運転用コンタクトにより測定する。

参考文献

  • 電気事業講座 第10巻 電力流通設備
  • 平成29年度 第二種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問6「変電所の保全業務における定期点検と GIS 診断技術」
  • 平成26年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「大容量 GIS の異常診断手法」
  • 平成21年度 第一種 電気主任技術者 一次試験 法規 問5「ガス絶縁開閉装置の診断技術」
  • 平成17年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問2「GIS の診断技術」
  • 平成10年度 第一種 電気主任技術者 二次試験 電力・管理 問5「ガス絶縁開閉装置(GIS)の性能低下の監視・測定」

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