60歳から65歳までの再雇用後の給与相場は?年金と給付金についても解説

現代の60代のうち、3人に2人は働いています。今回は60歳から65歳の人が再雇用された場合の給与相場と、老齢年金や雇用保険の給付金について社労士が解説します。

60歳以上の高齢就労者は毎年増えている

内閣府では「高齢社会白書」という報告書を毎年発行し、政府が講じた対策の実施状況や関係予算、高齢社会の実態などをまとめています。この白書では、高齢者の労働人口が年々増加傾向にあることも報告されています。

参考資料:令和3年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府

65歳〜69歳の半数以上が働き続けている

高齢者の労働人口比率(人口に占める労働力人口の割合)は年々高まっており、過去最高の就業率を記録しています。
令和2年 労働力人口比率の推移(%)
「労働人口比率の推移」という表によると、65~69歳では51.0%(前年49.5%)、70~74歳では33.1%(前年32.5%)となっており、2005(平成17)年以降から上昇傾向にあります。また75歳以上の労働人口比率は10.5%(前年10.3%)となり、2015(平成27)年以降から上昇し続けています。

つまり、65歳から69歳の人では半数以上、70歳から74歳の人では3人に1人、75歳以上の人では10人に1人が働き続けているということです。

法律で定年が60歳→65歳→70歳に変化

老齢年金の受給開始年齢が、段階的に60歳から65歳に引き上げられたことで、企業は65歳までの継続雇用を実施することが義務化されました。
これは2013(平成25)年から始まり、現在は経過措置の期間です。2025(令和7)年3月までに、65歳までの「高年齢者雇用確保措置」が義務付けられています。

さらに、年金の繰り下げ支給が75歳まで選択可能になったことに合わせて、2021(令和3)年4月に、70歳までの継続雇用や定年制の廃止などが企業の努力義務となりました。

60歳以上の人の生活満足度は年々低下している

2021(令和3)年版の高齢社会白書に「老後生活の満足度について」という調査結果があります、これによると、60歳以上の人に「現在の生活に満足しているか」と尋ねたところ、満足している人の割合は81.6%となりました。5年前の同じ調査の結果と比べると、6.7%も低下しています。

なお、同じ調査を世界各国でも実施したところ、アメリカは94.6%(5年前95.2%)、スウェーデン92.2%(5年前97.1%)、ドイツ91.6%(5年前91.9%)となっています。老後生活の満足度は世界的に低下傾向にあるのですが、日本の高齢者の満足度がもっとも低いということがわかりました。

「老後生活の満足度について」各国60歳以上男女の意識調査

再雇用・再就職する人が増えている

高齢社会白書の調査結果から、老後の生活に満足している人が減っていることがわかります。そうしたなかで、定年延長など、国の政策も相まって、高齢者の労働力へのニーズも高まってきています。
定年後も働きたいという人が増え、継続再雇用や再就職は、もはや当たり前になってきているのです。

60歳から65歳の再雇用後の給与相場

60歳以降の人が定年後に再雇用を選択した場合、それまでの給与と比較して、どのように変化するのでしょうか。
なお、再雇用の中にも、嘱託社員としての再雇用や、パートタイムやアルバイトなどの非正規雇用、あるいは別の企業に勤める再就職などのパターンがありますので、それぞれの状況における給与相場について解説します。

現役世代と定年世代の給与比較、男性は22%減、女性は17%減

国税庁が公開している「令和2年民間給与実態統計調査」の中にある「年齢階層別の平均給与額」(21ページ)を確認してみましょう。
国税庁調査「年齢階層別の平均給与」グラフ(令和2年民間給与実態統計調査)より
この調査によると、男性の平均給与額(1年分)は55歳から59歳で668万円で、60歳から64歳になると521万円となり、147万円減少します。
女性の平均給与額(1年分)は、55歳~59歳で311万円で、60歳から64歳では257万円となり、54万円減少します。

定年世代となる60歳から65歳の給与は、直前の現役世代と比べると、男性では22%減、女性では17%減となることがわかります。
この平均的な下降の割合を踏まえて、定年後の再雇用、再就職、パートタイム・アルバイト、在宅ワークなどへ切り替えることで、どれくらい給与が減るのか、それぞれの相場を確認していきましょう。

再雇用後の給与相場は現職時給与の4割減〜6割減

2013年以降、企業は再就職制度や継続再雇用制度を導入し、60歳の定年退職後も働き続ける人が増えました。
ただし、これまでどおりに稼げるかというとかなり微妙です。60歳以降は業務量を減らしたり、勤務時間を短縮したりして、再雇用をする企業が多いからです。

日経ビジネスが2021年に実施したアンケート調査「定年後の就労に関する調査」によると、再雇用後の給与は現職時の4割減から6割減になるということがわかりました。
正社員として働いていた60歳時の月給金額が40万円ほどであれば、再雇用後は月給16万円~24万円程度になると計算できます。

なお、ボーナスの支給額も4割〜6割ほど減じる傾向が強いようです。

再就職の給与相場は前職給与の3割から4割減

60歳や65歳で定年退職をした人が、今まで勤めていた会社の再雇用制度を利用せず、ほかの会社に再就職・転職するケースもあります。
しかし、60歳以降の正社員登用が増えているかというと、非常に微妙です。
企業としては、給与金額がもっとも高くなる50代から60歳手前の人物を採用するとなると、多額の費用を投じる必要があるからです。採用企業にとって、大きなメリットとなる特徴や強みがある人物でないと、正社員採用に踏み切る可能性は極めて低いと言えます。
そのため、60歳以降の人が再就職した場合の給与額は、前職より6割から7割まで下がってしまう(3割減から4割減)ことが多くなります。

再雇用ではなく別の会社へ再就職を検討している人は、再就職の活動が厳しくなる50代後半ではなく、50代前半で転職活動をするほうが、現状維持の可能性を見出せるかもしれません。
再雇用以外の道を検討している人は、50代のうちに転職活動を始めることをおすすめします。

定年後にパートタイム・アルバイトで働く場合の給与相場は?

60歳や65歳で定年退職したあとは、フルタイムではなくパートタイムやアルバイトで、ほどほどに働くという選択肢もあります。
業種や勤務する時間数によって給与金額は変わってきますが、60歳以降のパートタイム・アルバイトの時給の相場は、地域別最低賃金か、それに近い額と考えておいたほうがいいでしょう(※)。

たとえば時給が1,000円で、週3日フルタイム勤務であれば、月96時間の労働で月給は9万6千円(額面)となります。
同じ時給で週5日フルタイム勤務なのであれば、月160時間労働で月給16万円(額面)です。

現役時代の収入からは大幅に減ってしまうかもしれませんが、「社会参加を続ける」「健康のために体を動かす」という観点から考えると、とても有意義な老後の過ごし方となるでしょう。

地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省)

自宅で仕事をする在宅ワークという働き方

出社をせずに、在宅・リモートワークのスタイルを選択して働き続ける方法もあります。
在宅ワークは、インターネットを活用して仕事を請け負い、自宅にいながら働くことです。
勤務時間や仕事の量は、自分の裁量で決められるため、家事や介護、本業や副業と併行できるなどのメリットがあります。

個人事業主として在宅ワークをする場合は国民健康保険などに加入することになります。なお、国民年金の加入期間が短い場合は、60歳以上でも加入し続けることもあります。

収入は、仕事の内容や量によって変わりますが、2013年度に厚生労働省が三菱UFJリサーと&コンサルティング株式会社に委託した調査では、5万円以下の収入を得ている人が27.7%、次いで多いのが10万円から19万円の収入を得ている人で18.5%という割合でした(※)。
コロナ禍以降は在宅ワークという働き方が急激に普及しましたので、収入額はこれよりも多くなっている可能性はあります。

Ⅰ - 在宅ワークの実態(厚生労働省)

再雇用・転職で給与減を避けるには雇用保険の給付金を活用しよう

日本人の平均寿命は年々伸びており、2010(平成22)年の簡易生命表(厚生労働省)によると、男性の平均寿命は79.64歳(2000年は77.72歳)、女性は86.39歳(同84.60歳)となっています。
寿命が伸びた分、60歳や65歳で定年退職したあとも、20年から30年程度は安心して暮らせる経済基盤を維持する必要があるため、老後もできるだけ長く働きたいと考える人も珍しくありません。

しかし、一般的に再雇用や再就職などで、それまでの給与額を維持するのは難しいという事実もわかっています。そこで減った給与をある程度カバーするため、雇用保険に関連した高年齢者の給付金を利用することをおすすめします。

雇用保険の給付金制度を活用して収入減を補う方法

これまで解説してきたように、65歳まで再雇用制度を用意している企業では、そのまま働くことが可能です。
また、定年をきっかけに別の企業に転職する人もいらっしゃいます。
いずれの場合も、現役時代の頃と同じ水準の給与を確保することはとても大変です。

そこで定年後に減少した収入をカバーする方法として、雇用保険制度の中で設定されている2つ給付金である「高年齢雇用継続基本給付金」か「高年齢再就職給付金」を活用することをおすすめします。

再雇用で受け取れる「高年齢雇用継続基本給付金」

まずは「高年齢雇用継続基本給付金」について解説します。60歳になり、これまでと同じ会社に再雇用され、給与が減ってしまった人が対象となる給付金です。
給付金を受けるには、下記のような条件を満たす必要があります。

<高年齢雇用継続基本給付金の支給条件>

  • 5年以上、雇用保険に加入していた実績がある
  • 現在も雇用保険に加入している
  • 今までの収入の75%未満までの賃金水準が対象

高年齢雇用継続基本給付金は、60歳から65歳まで継続雇用されている期間に支給されます。

賃金の下がり方で、受け取れる金額は変わります。
給与額が61%以下になった場合は、各月の給与の15%相当額が支給され、75%以上の給与の時は、この給付金は支給されません。

企業側が手続きをしてくれますが、入金は本人の指定口座に直接振り込まれます。

転職で受け取れる「高年齢再就職給付金」

もう1つの給付金は「高年齢再就職給付金」です。定年後に同じ職場で再雇用されるのではなく、60歳以降に転職した人が対象です。
給付金を受けるには、下記のような条件を満たす必要があります。

<高年齢再就職給付金の支給条件>

  • 失業中に基本手当を受給したあとの再就職で、賃金水準が75%未満となった
  • 60歳から65歳未満の一般被保険者である
  • 基本手当についての算定基礎期間が5年以上ある
  • 再就職日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上ある
  • 1年を超えて引き続き雇用される安定した職業に就いた
  • 同一の就職について、再就職手当を受給していない

 

65歳以上の失業保険「高年齢求職者給付金」の申請も検討してみよう

65歳以上の失業者に給付される「高年齢求職者給付金」もあります。
65歳以上の人で新たに仕事を探す場合は、この給付金の申請も検討してみてください。
2017(平成29)年の改正雇用保険法により、65歳以上でも雇用保険に加入できるようになり、要件を満たせば給付金が受けられるようになりました。

知っておきたい在職老齢年金

各種給付金の受給と合わせて考えておきたいのは、働きながらでも受け取ることが可能な在職老齢年金についてです。
実は各種の給付金を受け取ると、在職老齢年金が減らされることがあるため、注意が必要です。

年金基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円を超えると、支給される年金額は減給されてしまいます。 そのため、収入と照らし合わせて考えることが重要です。

まとめ:受け取れる給付金や年金について調べておき、給与減に備えよう

定年まで働いていた会社で再雇用で働いたり、定年後に新しい会社に再就職したりする場合、雇用保険等の条件を満たすことで、各種の給付金が受け取れます。
前述の通り給付金を受け取るにはさまざまな条件がありますので、その内容を理解し、ご自身のライフスタイルや仕事内容、年金などについても考慮して、自分にマッチした収入計画を立てるといいでしょう。

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